生存戦略☆生き抜けしばたちゃん

酔いどれ大天使しばたちゃんの自由帳

青い夢

忘れられない夢がいくつかある。

それらはたいてい恐ろしい夢で、私のトラウマや恐怖を象徴で置き換えた悪夢のミュージアムだが、最近見た一つの夢は、覚めることを拒絶したくなるほど美しい夢だった。

 

初夏、紫陽花が咲くころの、電車の中だった。
電車は住宅街、雑木林、小さなトンネルを颯爽と走り行き、最後は抜けるような青さの水面煌めく大河の上を走っていた。
鮮やかな車窓のあちら側とは異なり、車内は薄暗く、鬱蒼と茂った森のようでもあった。疎らな人影、赤黒いビロードの座席はいくつも空いていたが、私は車両の真ん中に立ち尽くしていた。

彼らが私に気づいたら、きっととても恐ろしいことが起こる、と思ったからだ。

座席に座る影たちは、常に揺らぐ真っ黒な陽炎、濃密な霧の塊をしていて、私の理解できない言語で何事か囁き合っていた。その話題は私に関するものではないことはわかる。

現在彼らが私に何もしてこないのは、私の存在が彼らはまだ悟られていないからだと直感していた。

初夏の鮮やかな景色。眩しい大河を切り取る車窓を横目に眺めながら、気づかれないように常に気を張り、息を詰め、次の駅で必ず降りようと心に決めた。緊張で息が苦しくなり、着ていた服の胸辺りをぎゅっと握った。

 

暗転。

 

気づくと、終着駅だった。

電車の中はがらんどう、窓ガラスは外側から何か衝撃を受けたあとのように車内に散らばり、少し身じろぎすれば怪我をしてしまいそうだった。陽炎たちは一匹たりとも居なくなっていた。

ふと足元を見ると、ミツマタの蛇が居た。
この世の光源の全てを吸収したかのような黒は、カミのようなものに映った。実際、私は蛇はじめ爬虫類の類に少しも愛らしさを見出せないが、夢に出てきた三つの頭を持つ蛇は、その漆黒さ故に傍にいるだけで不思議と心が安らいだ。

あのヒトモドキの陽炎などよりも、ずっと深い、すれ違わない同質の言語で対話ができる唯一の存在、という感じがした。

蛇が頭をもたげ、私に聞いた。

「本当にここで降りるのか」

実際は言葉ではなかった。意味として、意志として、蛇の問いが私の身体の中に抵抗なく入り優しく響いた感覚だった。

私も同様に送り返した。

「ありがとう。此処こそ、私の終着駅だ」

 

蛇が促すより先に振り替えれば、私の足元から車両の乗降口に向けて、散乱したガラスが除けられ歩ける一本の道ができていた。

私はためらわず、電車を降りた。二度と帰れないが、二度と帰る気は無かった。

 

終着駅は無人駅で、車両の端から先は線路も何も続いていない。
水無月の、清流がそのまま空気に溶け込んだような微かなときめきを感じる神秘的な空気が、小さく古い無人駅には満ちていた。

青いベンチと、二度と動くことは無いであろう錆の浮いた車両、木製の屋根。きっと外にはヒトも蛇も、私以外の生き物はひとつも居なくて、ただ青い田園風景と空が広がり、紫陽花が咲いているのだろうと思った。

 

 

そしてここで、目が覚めた。

今回想しても、うっとりするような私のための天国のような夢だった。
これを読んでいるあなたには、何か忘れられない夢はあるだろうか。

書き出してみると、自分の根底の欲望、本当に望ましい生が垣間見えておもしろいので、ぜひ文章にしてみてほしい。

 

 

 

ちなみに、私がこれを書こうと思ったのは精神安定のためだ。
色々な楽しい予定があって、8/17まで死ぬわけにはいかないので、今朝見た悪夢を払拭したかったのだ。

最近常に身体がだるく、パニック発作も起こりやすいため苦労しているので今日は昼過ぎまで寝ているつもりだったのだが、はっと目が覚めるといつか飲んだ大量の錠剤が枕元におびただしい数散乱していて、知らぬ間にすべて飲んでしまったのかと驚き震えが収まらなかった。

実際、それは夢であったわけだが、怯えたのちに枕元の幻覚の薬を漁り、「次の通院の日までの眠剤があるから大丈夫か」と安心した自分が居たことが崩壊のはじまりのようで一番恐ろしかった。